1.乙女鉱山保護・整備の提言

山梨には、水晶を産出する鉱山が多数存在している。言うまでもなく、水晶の聖地の起源としての水晶鉱山は、「水晶の山梨」のシンボルとして欠かせない。しかし、残念ながら、その事実は一般に知られておらず、行政もまた歴史ある水晶鉱山跡を事実上放置したままとなっている。

しかし、こうした無策は、水晶鉱山跡の自然災害による崩壊、さらには水晶原石の盗掘といった人的被害を招き、修復不可能な損害をもたらそうとしている。とりわけ乙女鉱山(山梨市)では、山梨・首都圏・愛知・京都などの鉱物収集家が良好な水晶やガマを求めて採掘を繰り返し、近年坑道や崖面の崩落が進んでいる。峡東林務事務所は県有林入山禁止の措置をしているが徹底されておらず、休日には数十人が野営することもめずらしくない。
これ以上の被害を食い止めるためは、専門家も交えながらより積極的な保護姿勢を見せることが急務だろう。とりわけ人的被害に対しては、パトロールなどの「監視」も不可避ではあるが、鉱山に関心を持って訪れる人たちと共生し得るルール作りも検討していきたい。何より、崩落の進む乙女鉱山の現状を、具体的なデータとともに広く周知していくことが、私たちの近々の課題である。

また、鉱山跡の近代産業遺産認定に向けた総合的な調査(鉱山学・地質学・考古学・建築学・土木工学・生物学・水文学・環境学・全面測量)も、望まれるところである。
とはいえ、乙女鉱山は秩父多摩甲斐国立公園内であり、県有林として環境保護の規制も避けられない。さらに、冬季には零下20度を超える寒冷地で、12月~4月には牧丘・川上線大弛峠林道が閉鎖される。山岳地で熊の出没も度々あり、自然保護を図りながら整備・管理を進めていくにはまだハードルが高いといえるだろう。
そうした状況の中、山梨市は2006年に乙女鉱山跡を文化遺産として見直し、観光資源として整備する構想を提案した。「ジオパーク」活用策を含め、今後の市の対応に注目しながら、連携を図っていきたい。

何より水晶鉱山跡を保護することは、自然を守るという環境面のみならず、そこに育まれた水晶産業の歴史を守ることでもある。当然それは一団体では困難であり、県民・行政が一丸となって取り組む課題というべきだろう。私たちがまずすべきことは、乙女鉱山を始めとする水晶鉱山跡の自然価値・歴史価値を訴え、広く理解を求めていくことに他ならない。当面、学習会はもとより、定期的に鉱山跡を案内して現状を説明する機会を作っていきたいと考えている。

2.技術後継者育成の提言

山梨には、他に類を見ない高度な水晶研磨技術がある。しかし、その技術を支える研磨職人の減少が現在、深刻な問題となっている。
職人の高齢化や、粗雑な安い輸入品によってシェアを奪われたことなどから県内での仕事が激減し、工場を閉めてしまう例も少なくない。そのような状況の為、技術の後継者となる弟子を受け入れている職人はほとんどなく、工場の閉鎖とともにその独自の技術も失われつつあるのが現状である。
これらの職人の技術を伝統文化として継承していくために、以下いくつかの施策を提起する。

職人の技術を守るためには、まず外からの環境づくりが求められてくる。直近の処置としては、引退しつつある職人の技術や限られた職人にしかできない技術が途絶えないよう、技術を習得する素地をもつ現役の熟練した職人に継承してもらうことである。そのため、職人同士を紹介する機会を、積極的に作っていきたい。

次に、時間のかかる中長期的な施策として、技術の形式知化にも取り組んでいく。その一つとして、職人とその研磨技術のデータベース化を行う。データベースを用いることで、研磨の仕事と適切な職人とのマッチングを容易にし、仕事の面でも技術伝承の面でも、職人とその技術に広範にアクセスできるようにしていきたい。また、特別な加工技術については、加工の様子を撮影・記録し、ゆくゆくは研磨技術の「教科書」を作成することも考えている。同時に、水晶ミュージアム設立に関連して、職人への聞き取り調査を行い、水晶研磨技術の歴史を整理することも不可避である。

最後に、長期的な施策として、若い人材確保の道筋を作っていく。セミナーなどを設けて、外部の人が職人の技術を学ぶ機会を作り、関心を深めてもらうことも有効だろう。可能であれば、工業技術センターなどの施設とも連携し、道具や機械の確保に努め、NPO法人で職人を育てるシステム(職人学校)も模索していく。

高い技術を持ちながら、その文化が消滅しかねない状況にある山梨県の水晶研磨職人を保護することは、日本の伝統産業を守ることでもある。
手遅れになる前に、行政や業界に働きかけながら、私たち独自の対策も早急に実施していきたい。

3.水晶ミュージアム設立の提言

周知の通り、山梨県はフォッサマグナ、富士山、南アルプス、秩父山系など地形的に特異な特徴を持った県である。また、地質においても、金峰山周辺、白州山麓などの花崗岩帯には水晶が大量に埋まっており、前期縄文時代より生活の道具として利用されてきた。
明治時代以降は採掘量の増加や研磨技術の発展に伴い、様々な工芸品が作られるようになり、日本式双晶などの原石とともに世界中の博物館や蒐集家に輸出された。また、後にその研磨技術は水晶発振子などの工業製品にも活用され、山梨はもとより日本の産業を担うまでになった。
こうした他県にはない水晶文化や研磨の歴史を活かして、山梨県にしかできない水晶に特化した学術的施設「水晶ミュージアム」を設立することが、観光立県山梨には求められているのではないか。

具体的な中身としては、❶山梨県の地質構造的解説(全県の立体地質模型等)、❷乙女鉱山をはじめとする県内の鉱山(金山を含む)紹介や歴史解説、❸山梨産水晶原石と鉱物の展示解説、❹釈迦堂遺跡に見られる水晶鏃等の水晶文化の起源解説、❺縄文より現代までの水晶製品(収集)と道具を含めた技術技法の解説、❻人工水晶の歴史と解説(現在の最先端技術発振子など)、❼世界中の珍品巨大原石の展示解説、などを検討していく予定である。
水晶ミュージアムとしては、とりわけ❺・❻が特徴あるものになるだろう。

何より、私たちが目指すのは、「ジュエリー中心」あるいは「販売目的」のためのスペースではなく、“水晶の聖地-山梨”のシンボルにふさわしい施設である。
来館者に山梨でしか味わえない知的好奇心を提供できるような施設の設立に向け、今後具体的な活動を行っていきたい。ひとまず、後世に伝えるべき貴重な製品を写真に残し、資料としてまとめることが早急の課題である。
また、研究等の理由で県外(ないし国外)へ流失してしまった原石や加工品をリストアップし、それらを再び故郷山梨に戻すべく、関係機関への働きかけを行うことも検討している。

さらに、❸と関連して、現在山梨大学に所蔵されている「百瀬コレクション」の周知活動を進めている。山梨県民でさえその存在を知っている人は少ないが、百瀬康吉氏が残した水晶の蒐集品は言うまでもなく県の貴重な財産であり、それらを守り伝えていくことは欠かせない。
それと同時に、同コレクションを保管する目的で昭和初期に作られた「水晶庫」も、大変歴史的価値の高い建造物であり、私たちはそれを文化財として長期的に保護する必要性を感じている。

  • はじめに NPO法人山梨水晶会議は、「山梨の水晶」が名実ともに県民の文化を育みその誇りとなり得るよう、水晶を基軸とした地域振興、産業振興、観光振興、環境保全等の活動を行うべく発足しました。 わが県は、多数の水晶鉱山と良質…
    続きを読む →

  • 1.山梨の地質の特徴と水晶鉱山 山梨は「山紫水明」の地と言われ、時代を問わず多くの人々に親しまれてきた。それは、単に“美しい自然に囲まれた地”であるだけではなく、貴重な自然資源に恵まれ、同時にそれを活かして産業が営まれて…
    続きを読む →

  • NPO法人山梨水晶会議は、「山梨の水晶」こそ世界に誇る比類なき地域資産であることを県内外の方々に広く訴えることで、活き活きとした地域を創出していく為の活動を進めています。 長い準備期間の後、多くの方々のご協力のもと、20…
    続きを読む →