1.山梨の地質の特徴と水晶鉱山

山梨は「山紫水明」の地と言われ、時代を問わず多くの人々に親しまれてきた。それは、単に“美しい自然に囲まれた地”であるだけではなく、貴重な自然資源に恵まれ、同時にそれを活かして産業が営まれてきた永い歴史を有しているからといえるだろう。
とりわけ、「水晶」はその最も顕著な産物の一つである。山梨県北部に位置する秩父山地の花崗岩層には、向山鉱山、黒平鉱山、水晶峠、バッタリ鉱山、八幡山鉱山、乙女鉱山、小楢山、川端下、小川山などの水晶鉱脈が知られている。そこから産出する水晶は無色透明かつ大型が多く、日本式双晶に代表されるような希少性・美観性が認められる。

2.「山梨の水晶―水晶製品加工―」の歴史

山梨の「水晶」の歴史は永い。考古学的に見ても、縄文時代から水晶を用いた鏃などの加工品が全国各地で発掘されている。また、古墳時代には管玉、勾玉、丸玉等の水晶製品が作られており、それらも近年発掘された。とりわけ、埼玉県反町遺跡の出土品は、「山梨の水晶」が使用されており、古くから山梨県産水晶が流通していたことを示している。
さらに天正年間、金峰山での水晶発見を経て、江戸時代には「山梨の水晶」での加工品―丸玉、根付、緒メ、数珠、眼鏡、印材等が世に出るようになった。
明治初期には水晶工芸品類の加工技術が飛躍的に発展し、明治10年(1877年)の第1回内国勧業博覧会にも多くの作品が出展されている。また、「山梨の水晶」の蒐集家として有名な百瀬康吉氏もこの時代に活躍した。その国内有数の水晶標本である「百瀬コレクション」は、現在山梨大学水晶館に展示されている。
大正時代に入ると、“甲州水晶”の代表製品である首飾り(ネックレス)・彫刻品等が市場に出回るようになった。また、大正7年にはブラジル等からの原石輸入が開始され、次なる産業の段階へと進んでいく。
昭和には戦争をはさんで、物産としての水晶製品ブームが起こった。しかし、それを機に増加した海外からの製品輸入と人工水晶の登場が相対的な価値の低下をもたらし、同時に県内の研磨産業の衰退を招く事態となった。

現在、大量消費の時代が終わり、“量から質”へ価値観が転換しつつあることから、「伝統工芸として甲府で加工した研磨製品」のニーズが高まりつつある。それ故、数少なくなった工場を建て直し、現役の水晶研磨職人から次世代への伝統技術を継承していくことが緊急の課題となっている。

3.現状と課題

先に示したように、山梨の地質環境から生まれた水晶研磨技術は、永い歴史の中で多くの県民、職人、商人(行商人)らによって全国に発信され、「山梨の水晶」「水晶の山梨」という認識が定着した。
実際、山梨県を訪れたことのない人でも、山梨のイメージの一つとして水晶を挙げる人が多い。①水晶鉱山がある、②水晶職人が息づく、③街中に水晶があふれている、他の地域には無い独特の雰囲気を持った場所―、それが多くの人が「水晶の山梨」に持つイメージである。これこそが“地域ブランド”であり、それを大事に育て発展させていくことが、山梨活性化の原点でもあるといえるだろう。

とはいえ、現在の県内産業は、必ずしも「水晶」を大切にしているとは言い難い。むしろ、「水晶は山梨独自の伝統であり、山梨の個性を作る重要な財産である」という意識が、極めて希薄に見える。真に伝統を形にした水晶製品はごくわずかで、輸入品や合成水晶が「山梨製天然石」のように販売されていることすらある。その価値が十分に理解されていないため、水晶は完全にジュエリーの影に隠れてしまい、「山梨の水晶」を歴史と伝統に裏打ちされた真の山梨ブランドとして育てようとする動きは無いに等しい。

さらに、NPOの紹介活動の中で業界とは無関係の山梨県民にも触れ合ったが、半数以上の人が山梨が水晶の産地であること、水晶産業が江戸時代から続く伝統産業であることを知らなかった。
現在、山梨の地域経済を牽引するのはジュエリー産業であっても、人々の憧れの対象には少なからず歴史的水晶産地の雰囲気がかもすロマンがあるはずである。私たちが大切にしたい「その土地にしかないもの、そこでしかできないもの」こそ、人々の尊敬と憧れを集めると考える。しかし、山梨に住む人々の意識が低ければ、その尊敬と憧れは大きな失望となるに違いない。

こうした現状を放置し、正しい問題意識を持たなければ、近い将来、「山梨の水晶」という伝統文化は消えてしまうかもしれない。山梨だけの伝統ではない。日本の伝統の一つを滅ぼしてしまうことになる。
何より、本物へのこだわりが重視され、ものづくりの尊さが見直されている現在こそ、山梨が新しい視点で水晶に回帰する絶好の機会ではないだろうか。

それ故、私たちNPO法人山梨水晶会議はこれより以下、現在指摘し得る個々の問題点を明示し、その具体的な対策を提起していく。

  • はじめに NPO法人山梨水晶会議は、「山梨の水晶」が名実ともに県民の文化を育みその誇りとなり得るよう、水晶を基軸とした地域振興、産業振興、観光振興、環境保全等の活動を行うべく発足しました。 わが県は、多数の水晶鉱山と良質…
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